博物館ディクショナリー

型式変化とルジメント(けいしきへんかとルジメント)

 考古学とは、遺跡や遺物を分析して、それから人類の過去の社会のありさまや文化を復元する学問です。しかし、遺跡や遺物から過去の社会や文化を復元するには、まず、発掘で見つかった遺跡や遺物がどの時代に属するものなのかを、できるだけ正確に知る必要があります。そのために、考古学者は、どの遺跡でも出土する土器のような遺物を選んで新旧をくわしく研究しておき、年代をはかる物差しのように使います。そして、この物差しとなる遺物によって、それが出土する遺跡や遺構の年代やいっしょに出土するほかの遺物の年代を推定するのです。それでは、考古学者は、土器などの遺物の新旧をどのようにして決めるのでしょうか。その方法のひとつを紹介しましょう。

 自分のくらす環境により適応して生きていくために、動物が少しずつ体を変化させていったように、私たちヒトは道具などの器物を少しずつ改変していきます。それぞれの改変はわずかでも、時間を経てこのような改変が積み重ねられた後には、器物を一見まったく別のものに変えてしまうことさえあります。考古学者はこのような変化の過程を細かく分析し、明らかにすることによって、遺物の新旧を決めることができるのです。

 ではつぎに、ものがどのように変っていくか、公衆電話を例として取り上げて具体的にみましょう。

1は、ここに示した4種の中で最も古い型ですが、受話器が上についている点、大きなダイヤルが中心についている点に、昔の卓上電話の形をまだとどめています。

2では、ダイヤルが小さくなり、受話器が本体の横につくようになりました。コインの投入口は本体の上部に突出するように変化しています。

3ではダイヤルがプッシュボタンにかわりました。ボタンが全体として方形を構成しているにもかかわらず、納まりの悪い円盤の上に配されているのは、2のダイヤルの形を意識しているためです。

4では、この無意味な円盤は略されてしまいます。コインの投入口は本体に組み込まれるようになりました。そして、カードも使えるようになっています。

 このような電話の変化を自分自身で見てきた私たちには、これらの電話が1→2→3→4と変化したことはすぐにわかりますが、もし私たちにまったく予備知識がない場合には4→3→2→1へと逆向きに変化したと考える可能性もあります。変化の連続性という点では、これでも一見矛盾がないからです。しかし、観察力のすぐれた人なら、3の電話のボタンが置かれた円盤が2のダイヤルの形をとどめたものであることに気がつき、3から2へ変化したことはありえないと考え、そして1から4へと順に変化したと判断するはずです。ここで着目した3のボタンを配置した円盤は、ダイヤルが実際の意味を失い形態だけを残したものですから、いわばヒトの尾てい骨(びていこつ)のようなものです。このようなものを、考古学ではルジメント(痕跡器官(こんせききかん))と呼んでいます。ここに示した電話の例でもわかるように、ルジメントの検出は、変化の方向を決定する上で特に重要な役割を果します。
 では最後に課題をだしましょう。下に、弥生(やよい)時代の銅矛(どうほこ)の実測図があります。この新旧3本の銅矛では、どれが古くどれが新しいでしょうか、そしてどの部分がどのように変化していったでしょうか、みなさん自身で考えてください。

黒い部分は断面形を表しています。また、この実測図は展示品と異なります。

考古室 難波洋三
1994年2月12日

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