博物館ディクショナリー

カラフルで迫力満点 皇帝のごちそう入れ 雲龍文存星輪花食籠(うんりゅうもんぞんせいりんかじきろう)

 このゼリー型のような花形のうつわは、直径が46cmもある巨大(きょだい)な入れものです。龍(りゅう)が描(えが)かれていますね。日本のおとなりの大きな国、中国で作られました。中国ではかつて、皇帝(こうてい)という絶大(ぜつだい)な力をみとめられた特別な人物が国をおさめていました。皇帝の「皇」は美しく大きなこと、「帝」は善(よ)い行いによって天と一体であること、といわれています。国の君主はこうあるべき、という理想がこめられたことばです。そして龍は、この皇帝を象徴(しょうちょう)する想像(そうぞう)上の動物でした。

  • 雲龍文存星輪花食籠 当館
    雲龍文存星輪花食籠
    <京都国立博物館蔵>

 龍は、ふだんは水のなかに住んでいて、「そろそろ雨をふらせるべきころだな」と思ったときに天空にむかってのぼって行き、雨をふらすと信じられていました。雨をふらせおわるとまた地上にむかってくだってきて、水のなかにひそむのです。古代の中国では、こんなふうに龍が天地を行き来してお天気をコントロールしていると考えられていました。お天気は現代(げんだい)でもなかなか思うようになりませんよね。てるてるぼうずを作っても雨がふるときはふってしまうし、反対に、雨がふってほしいのにじゅうぶんにふらなくて作物が育(そだ)たなかったり・・・。天候を思いどおりにできるということは、自然界を意のままにあやつれる偉大(いだい)な力をもっているということです。そのために龍は、中国の皇帝、すなわち偉大(いだい)で美しく、善い行いによってこの世界をおさめるべき君主の、シンボルマークとなったのでした。

  • 雲龍文存星輪花食籠 部分 当館
    雲龍文存星輪花食籠 部分
    <京都国立博物館蔵>

 ところで、この大きな入れもの、何を入れたかわかりますか?正確(せいかく)なところは私も知らないのですが、宮廷(きゅうてい)のごちそうを入れたのだそうです。「食籠(じきろう)」とは食べもの入れという意味です。皇帝の暮(く)らす宮殿(きゅうでん)のパーティーでは、このような食籠がたくさんならんでいたことでしょう。蓋(ふた)の天板に5匹(ひき)、周囲に16匹の龍がならんでいますが、このほかに、どんな文様が描かれているでしょうか?天板の周囲やうつわの高台には、雷文(らいもん)のふちどり(中華(ちゅうか)料理屋さんの食器の文様でときどきみかけますね!)、龍のまわりには円い玉に炎(ほのお)がからんだ図、蓋とうつわの合うところには蝙蝠(こうもり)と雲、うつわの側面には大海原に浮(う)かぶ岩山に、当たって砕(くだ)ける波しぶきなどが、勢(いきお)いよく描かれています。炎(ほのお)のからむ玉は宝珠(ほうじゅ)といって、どんな願いもかなえてくれる魔法(まほう)の玉です。蝙蝠は、西洋では吸血鬼(きゅうけつき)と結びつくような恐(おそ)ろしいもののように考えられもしましたが、中国ではまったく逆(ぎゃく)に、幸福のイメージでした。それは、蝙蝠の「蝠」の字が幸福の「福」の字と同じ発音で読まれたからで、一種のことば遊びのようなものですが、縁起(えんぎ)かつぎをとても大切にした中国の伝統では、衣服や工芸品のおめでたい文様として盛んに用いられました。

 さいごに、このうつわのかざり方も観察してみましょう。あざやかな朱(しゅ)色の漆(うるし)を背景(はいけい)に、文様の細かな線が彫(ほ)りこまれていて、その線に金箔(きんぱく)が埋(う)めこまれています。金がはげ落ちてなくなっているところもありますが、蓋の周囲の龍のうろこなどは、まだキラキラと光っています。文様にはオレンジ色の漆や茶色っぽい漆、緑色の漆も使われていますね。さらにはグラデーション効果(こうか)が出るように、二色のあいだをぼかしたりもしています。じつににぎやかな色使いです。漆という塗料(とりょう)は、ひとたび固まると、熱湯にも塩分にも酸(さん)にも強いので、木製(もくせい)の食器を塗(ぬ)るのにとても好都合なのですが、そのままではうすいキャラメルソースのような茶色っぽい半透明(はんとうめい)の色なので、はなやかさに欠けてしまいます。そこで、顔料という絵の具を交ぜてカラフルにしたいのですが、むかしの自然素材(そざい)の顔料では見映(ば)えのよい色を得られる組みあわせが限られていて、黒、朱、そのふたつを交ぜた茶、オレンジ色っぽい黄色、緑、の五色しか出せないという弱点がありました。しかし、このうつわはそのすべてをうまく活用してフルカラーのはなやかな画面を実現(じつげん)しています。このような多色の漆で描いた文様に金を埋めこんだ溝(みぞ)を刻(きざ)む方法を、現代(げんだい)の日本では「存星(ぞんせい)」と呼(よ)んでいます。「存星」ということばは、かつてほかのかざり方をさしたこともあり、少しややこしいのですが、このうつわのような多色の絵と金の線を組み合わせた方法は、中国の明(みん)時代から清(しん)時代にかけて盛んに作られて、日本でもいかにも外国製らしい高級品として大切にされました。

 皇帝のごちそうを入れるのにふさわしい、色も形も文様も、大迫力(だいはくりょく)の食器ですね。

学芸部 永島明子
2015年6月3日

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