博物館ディクショナリー

男のコスメ? とびきり豪華(ごうか)な化粧(けしょう)

わたしたちが生きている今の日本では、お化粧(けしょう)というと女性(じょせい)がするものというイメージが強いですよね。でも、人類の長い歴史をふりかえると、男性(だんせい)がきらびやかに化粧をすることはめずらしくなく、日本の古代・中世の高貴(こうき)な男たちもしっかり化粧をし、着かざっていました。

  • 図1 国宝 松椿蒔絵手箱 京都国立博物館蔵
    図1 国宝 松椿蒔絵手箱 京都国立博物館蔵

むかしの日本のお化粧では、まず、顔(かお)を白粉(おしろい)で真っ白く塗(ぬ)りました。白粉の原料は、鉛(なまり)や水銀でしたから、お肌(はだ)にはあまりよくなさそうですね。

それから、生まれつきの眉毛(まゆげ)は、毛抜(けぬ)きを使って抜(ぬ)いてしまい、黛(まゆずみ)で眉を描(えが)きました。そうすることを眉を作るといいました。眉を抜く風習は日本固有といわれ、ほかの民族には見られないそうです。黛(まゆずみ)は、松ヤニなどを燃(も)やしてできた真っ黒な煤(すす)と、ツユクサや金箔(きんぱく)をゴマ油で練りあわせ、地中に寝かしたものでした。

真っ黒といえば、お歯黒もあります。鉄漿(おはぐろ)とも書き、同じ字で鉄漿(かね)とも読みます。鉄漿(かね)は、米の研(と)ぎ汁(じる)などを腐(くさ)らせて作るお酢(す)に、鉄くずや錆(さ)びた釘、針などを入れて沸(わ)かし、そこにヌルデという木に虫が作る瘤(こぶ)を粉にして加えた黒いインクです。この液体(えきたい)で歯の表面を染(そ)めるのですが、とてもまずくて強烈(きょうれつ)に臭(くさ)かったそうです。そこまでして歯を染(そ)めたのは、白い歯は、骨の先が見えているようで生々しいので、黒く塗(ぬ)って隠(かく)そうという考えからだったようです。

白、黒の次は、赤です。頬(ほお)と唇(くちびる)に紅(べに)をさしました。これは今のお化粧と同じですね。といっても、日本の伝統的(でんとうてき)なお化粧では、上唇(うわくちびる)は白粉(おしろい)で塗(ぬ)りこめて下唇(したくちびる)だけに紅(べに)を引きます。

今のように目のまわりにアイシャドウをのせたりアイラインを引いたり、つけまつげをしたりはしなかったので、真っ白な顔面に潤んだ瞳(ひとみ)がぽっかりと切り開かれたような感じだったはずです。能面(のうめん)をおもい浮(う)かべるといいかもしれません。うす暗い室内でもかなりの存在(そんざい)感があったことでしょう。

もうひとつ大事なお化粧に薫(かおり)があります。香(かお)り、つまり、パフュームです。むかしはあまりお風呂(ふろ)に入らず、髪(かみ)も洗わず、髪を米の研(と)ぎ汁(じる)で整えたりしたので、臭(にお)いを隠(かく)す必要がありました。お香(こう)をたいて、煙(けむり)を髪(かみ)や衣服に燻(くゆ)らせて、香りをつけました。

さて、ここまでは前おきです。今日紹介するのは、そのようなお化粧の道具をまとめて入れた箱です。阿須賀神社(あすかじんじゃ)に伝わりました。世界遺産(いさん)にも登録されている和歌山県の熊野速(くまのはや)玉(たま)大社(たいしゃ)にかつて付属(ふぞく)した神社です。熊野の神々の多くは男神です。古い記録によると、この箱は、明徳(めいとく)元年(1390)に将軍(しょうぐん)、足利(あしかが)義(よし)満(みつ)が、天皇(てんのう)や上皇(じょうこう)と一緒に、熊野の神々のために装束(しょうぞく)や調度品(ちょうどひん)(神宝(しんぽう)といいます)を捧(ささ)げたときの13合の手箱のひとつと考えられています。神々が人と同じ生活をすると考え、自分たちが使う道具と同じものを最高級の品質(ひんしつ)でしつらえて社に納(おさ)めました。つまり、この化粧道具は、当時の位の高い人たちが使った化粧道具と同じものであり、できるかぎり豪華(ごうか)に作られたはずなのです。

金銀にかがやく箱の中を見てみましょう(図 1)。 ふたを開けると、箱のふちに二重のトレーがのせてあります。トレーや箱の中には、金で文様を描いた銀製の薫物箱(たきものばこ)(お香(こう)を入れる円形の小箱)、白粉箱(おしろいばこ)(白粉を入れる正方形の小箱)、歯黒箱(お歯黒の材料を入れる長方形の小箱)、白い磁器(じき)の皿や菊の花の形をした銀製の皿(化粧パレット)、歯黒筆(歯を染めるのに使う鳥の羽でできた筆)、眉作(まゆつくり)(アイブロウブラシ)、髪掻(かみかき)、耳掻(みみかき)、鋏(はさみ)、鑷(けぬき)、鏡、解(と)き櫛(ぐし)、櫛払(くしはら)い(櫛の汚れを取る道具)などを納(おさ)めており、ほかに目のつまった櫛29枚を納めた櫛箱(図2)もあります。

  • 図2 国宝 松椿蒔絵手箱 京都国立博物館蔵
    図2 国宝 松椿蒔絵手箱 京都国立博物館蔵

手箱と櫛箱には、漆を塗った上に金粉や銀粉をふんだんに使って、松と椿が描かれています。中に入っている金属製の化粧道具も同じ文様で統一されています。松も椿も一年中、緑で枯(か)れることがなく、長生きの願いが込められた文様です。
華(はな)やかでおめでたく、眩(まばゆ)いばかりのコスメ・グッズですね。ぜひ展示会場で実物を眺めてみてください。

博物館ディクショナリー199号「男のコスメ? とびきり豪華な化粧」PDF版

教育室 永島 明子
2017年6月16日

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