泣きたくなるほど…/山下 善也

 平成二十年春、泣きたくなるほど忙しかった。自主企画の特別展覧会『絵画の冒険者 暁斎Kyosai』の担当者だったからだ。出品数は一三五件ながら、何場面もある画帖類や画巻などもあって点数はさらに多い。それらの解説、写真、キャプション原稿、作品集荷、そして展示。増やしたのは自分だから自業自得だし、だいぶ周りに助けてもらったものの、ほんとうに大変だった。

 国内の集荷先は、北は成田から南は熊本まで。海外からは、イギリスが大英博物館十三件と個人十件、オランダがライデン民族学博物館一件。海外で大変だったのは、イギリス便にもオランダ便にも、サイテスの手続きが必要だったことだ。


 サイテスとは、ワシントン条約に基づく動物等の輸出入に関わる手続き。なぜそんなことが必要かというと、掛け軸の軸端に象牙が使われていたから。美術品であっても、指定された動物の一部が使われていると、輸出国・輸入国それぞれで手続きが必要になる。許可がおりないと輸出入できない。しかも、何ヶ月も前から申請し始めなければ間に合わなくなる。

 点数の多いイギリスの方は迅速だったが、オランダの輸出許可がなかなかおりない。展覧会に間に合うかどうか、胃がきりきり痛む日々を送った。許可が出たのは、作品に随行するライデンの館員が出発する前日。まさにぎりぎりセーフ。なんとか展示を終え無事開幕した。


 京都では馴染みの薄い画家なので、三十日間でいったい何人の方が観にきてくださるか読めず、予算書では三万五千人を目標にしていた。販売用として用意した図録の冊数は五千五百部。ところが始まってみれば来館者は多く、図録は飛ぶように売れていった。急遽一万部の増刷決定。終わってみれば観覧者数は約七万七千人。約一万六千冊、四・三人に一人、二十%超の方が図録を求められた。かなりの高率といっていい。

 数だけではない。共催した新聞社の担当者から、暁斎展をみた感想を記したブログ(個人がインターネット上に公開した日記)が日を追って爆発的に増えていると聞き、パソコンで検索してみると確かにそのとおり。とても面白かったという感想が大半をしめ、初めて京都国立博物館に行ったという声も多かった。ブログは、会期後半になると全部に目を通すことができないほどになった。会場に若い人が目立ったことも特徴のひとつ。今後長く博物館の支持者になってくれるはずだ。


 展覧会の監修は、同志社大学教授の狩野博幸氏にお願いした。狩野氏につくっていただいた展覧会キャッチフレーズは「泣きたくなるほど、おもしろい」。泣きたくなるほど忙しかったけれども、誰よりも暁斎のおもしろさにはまったのは、実のところ僕だった。

[No.161 京都国立博物館だより1・2・3月号(2009年1月1日発行)より]

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