憧れのスペイン/京都国立博物館列品管理室長 若杉準治

 今春、京都国立博物館で開催した『THE ハプスブルク』展では、イタリアルネサンスからバロック、ロココという、日本では展観機会の少ない時代の美術が展示された。この展覧会では、会場入口のアーチ型看板にスペインバロックの画家ムリーリョの大天使ミカエル像が使われ、第五室にはそれを含むスペイン絵画が特集された。スペインはカール五世のときハプスブルク家の版図となったこともあって、ウィーン、ブダペストの美術館には多くのスペイン絵画が所蔵されている。そのスペイン絵画の名作を、自らの職場で見る機会を得たことは私にとって夢のようなできごとである。

 スペイン絵画との出会いは大学二年のとき、京都市美術館で開催された『スペイン美術展』だった。それまでにエル・グレコやベラスケスの名は知っていたが、その時に初めてスルバランやムリーリョの名を知り、とくにムリーリョの「無原罪のお宿り」(セビリヤ美術館)に見られる、優しく温かく包むような画風にひかれた。そののち、機会あるごとにスペインの美術を見るようになり、好みはしだいに厳しさと静謐さを感じさせる修道士や聖女の画像を通して、スルバランに移り、外国出張があるごとにスルバランの絵を探すようになっていた。スルバランの描く修道士の禁欲的な求道者のような雰囲気は、画家自身の性格を反映しているように感じられて心に響くが、今回展示された「聖家族」のような、晩年、ムリーリョの人気に刺激されて甘美さを含んだ画風に転換していった時期の作品も魅力に富んでいる。

 スペインバロックへの関心は、平成元年、研修の機会を与えられてヨーロッパへ出かけたとき、日程を調整してアンダルシアまで足をのばすまでに至り、さすがにスルバランの故郷であるバダホスまで行くことは叶わなかったが、その地域の寺院から移されたという、スルバランの手になる祭壇画をカディスの県立美術館まで見に行ったのは忘れられない。そんな私の偏愛を満たす今回の展覧会を夢のようというのは心からの実感である。

 『THE ハプスブルク』展の観覧者は開会からわずか三週間で五万人を超えた。このことは、西洋美術を求めている人が決して少なくないことを実感させる。人のつくりだしたものという点からみれば、芸術は洋の東西を超える。京都国立博物館は、日本、東洋の美術を収集展示することが使命ではあるが、これは「枠」ではなく「芯」なのだから、今後もこうした機会があるだろうと期待している。

[No.166 京都国立博物館だより4・5・6月号(2010年4月1日発行)より]

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