風神雷神が学校に!—文化財ソムリエの訪問授業—/京都国立博物館研究員 水谷亜希

 京都国立博物館にはソムリエがいます。と言っても、ワインのテイスティングをしているわけではありません。「文化財ソムリエ」という愛称で活動する学生ボランティアのこと。参加しているのは、京都市内で日本美術史を学ぶ大学生・院生(現在七名)です。博物館は21年度より、NPO法人京都文化協会、京都市教育委員会と協力して市内の小中学校への訪問授業を行ってきました。さらに充実した授業を目指して募集したのが「文化財ソムリエ」で、約10ヶ月のスクーリングを終え、この6月に金閣小学校でデビュー授業を行いました。その時の様子をご紹介しましょう。

 いつもの教室に突然現れた屏風。慎重な手つきで開くと、子どもたちから「おぉ!」「風神雷神や!」と声があがります。そう、教材は俵屋宗達筆の国宝「風神雷神図屏風(建仁寺蔵)」、ただし複製です。とはいえ最新のデジタル技術と伝統の技を集結した質の高いものです。金地部分には職人の手で金箔が貼られており、「本物の金なんだよ」と伝えると、子どもたちの目もキラキラと輝きます。

 この日の授業に向けて、講師をつとめるソムリエさんたちは「風神雷神図屏風」について勉強してきました。しかし、授業でまず子どもに伝えたのは、「俵屋宗達という京都の人が、約400年前に描いた」という簡単な情報だけです。そこから先は、こちらが質問を投げかけ、子どもにどんどん喋ってもらうというスタイルで進みます。「どっちが風神でどっちが雷神?二人はどこにいる?」と問いかけると、子どもたちはじっと作品を見つめます。実は授業の準備の段階で、あらかじめ伝えたい項目をピックアップし、疑問形に置き換える作業をしていました。講師が一方的に話をしても子どもはすぐに飽きてしまいますし、聞いたことも、たぶん次の日には忘れてしまいます。でも、自分で考えて答えを見つけたことなら印象に残るはずだと考えたからです。

 また問いかけの他に、手や体全体を使う体験も盛り込みました。風神雷神役の二人の子どもにポーズを真似てもらうと、クラスの仲間から「もっと足をあげて!」「手が逆!」と声がかかります。実際に真似するのはかなり大変なことで、風神雷神の力強さの秘密が、誇張した体の表現によるものだと気付いてもらうことができました。さらに、セリフを考えたり、風神雷神の切り抜きを使って自分たちの屏風を作ることで、構図について考えたりもしました。

 この授業では一つの作品に四十五分間、じっくりと向き合ったことになります。見どころの尽きない「風神雷神図屏風」の底力を感じると同時に、思わぬ発言をする子供たちの視点に驚かされ、講師としても収穫の多い授業でした。今回の授業をきっかけに、子どもたちは文化財に興味を持ち、やがて本物に会いに博物館に来てくれるでしょう。ソムリエさんたちには、これからも文化財の魅力で多くの人を「酔わせる」ために、大いに活躍してもらいたいと思っています。

[No.168 京都国立博物館だより10・11・12月号(2010年10月1日発行)より]

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