助数詞(じょすうし)考/京都国立博物館教育室長 山川 曉

 博物館で作品の基本情報を記す際の必須項目に「員数」がある。「員数を揃える」とか、「員数外」といった形で耳にすることもあるにはあるが、日常会話ではあまり耳にしない言葉だろう。「員数」とはずばり「物の数」であり、作品調書では、作品の数を意味する。

 日本の美術には、三幅対や六曲一双など、当初から複数で構成することを前提として制作された作品が多くあるので、作品ひとつが複数ということは珍しくない。さらに、掛物ならば「幅」、巻物ならば「巻」、屏風であれば「隻」や「双」など、作品の形状に対応する助数詞が定まっており、数は同じ「一」であっても、さまざまな助数詞との組み合わせが存在する。

 きものを中心とする染織品を担当している私が最も多く用いる助数詞は「領」。しかし「領」も万能ではない。漢和辞典を見れば明らかな通り、「領」とは襟、首を意味する漢字であり、首まわりを覆う衣服に用いる言葉だからである。袴や裳など、下半身にまとう衣服に対応する助数詞は「腰」であり、帯など細長い形状のものには「筋」や「条」を用いるのが一般的であろう。

 2010年、袈裟に関する特別展を企画していた私は、袈裟にふさわしい助数詞について考えあぐねていた。それまでの私は、右肩のみを覆う着装法が一般的な袈裟に対して「領」を用いることに違和感があり、当館の作品台帳にもしばしば使用されている「肩」を、無批判に用いていた。ところが、禅宗の袈裟に関する文字資料、具体的には、手紙や宝物目録、箱書などを通覧するにつれ、「肩」という助数詞がまったく見当たらないことに気づいたのである。

 たとえば、中国・南宋時代の高僧・無準師範(ぶじゅんしばん)が、愛弟子である東福寺開山・円爾(えんに)に贈った袈裟について記す自筆の手紙には、「法衣一頂」と記されている。また正和五年(1316)、円爾が示寂してから36年後に記された目録では、「法衣一帖」となっている。このほかにも、袈裟の員数を記すにあたって「帖」を助数詞とする文献は相当数にのぼり、中世の禅宗社会では、この助数詞はかなり一般的であったとおぼしい。

 ところが、中世から古代に目を転じた時、状況は一変した。光明皇后が東大寺大仏に寄進する聖武天皇遺愛品を書き上げた目録「国家珍宝帳」の冒頭に記される袈裟は「領」、空海が留学先の唐からもたらした品を記す「御請来目録」においても、師である恵果から授けられた袈裟は「領」と表記されていたのである。

 こうして現在、袈裟にふさわしい助数詞として、私は最もなじみ深い「領」を用いている。漢字一文字のことではあるが、現代人にも分かりやすく、歴史的背景にも寄り添って選んだこの助数詞には、ささやかな思い入れを持っている。

[No.181 京都国立博物館だより1・2・3月号(2014年1月1日発行)より]

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