新たな京博のすがた/京都国立博物館副館長兼学芸部長 松本伸之

 いよいよ京博の新館(平成知新館)がオープンした。足かけ六年にわたって閉じられていた常設展示館が装い新たによみがえったわけである。伝統文化を対象とする国立博物館の展示の根幹は、所蔵品や寄託品によって構成される通常の展示、つまり常設展示であり、この意味では、京博がようやく本来の姿を取り戻し、その活動を十全に行うための素地が整ったことになる。

 ところが、この常設展示というのは、日本の場合、大半の博物館や美術館において、あまり観覧者は多くないのが実情である。特定のテーマを設けて折々に行う特別展や企画展では、新聞や雑誌、テレビ、インターネットなどでも取り上げられることが比較的多いこともあって、常設展示に比べるとたいていは入場者数がずっと多い。話題性に富んだ催しに惹き付けられるのはなにも日本に限ったことではないが、それにしても、特別展や企画展と同等以上の内容を持つ自国の国立博物館の常設展示に対しても、一般的な興味がそれほど高くないというのはたいへん残念なことである。

 日本人が海外を訪れるとき、パリに行けばルーブル美術館、ロンドンならば大英博物館、ニューヨークではメトロポリタン美術館など、その地にある代表的な博物館・美術館へ足を向けるのがおおかたの傾向であるのに対して、日本国内を旅行する折には、京都でも、東京でも、あるいは奈良や福岡でも、それぞれの地に設置された国立博物館の見学を旅程に組み込んでいる方が、いったいどれほどおられるだろう。

 このような状況の背景には、一筋縄ではいかない、いろいろな要因があるはずである。幼少時から博物館に親しむ環境が必ずしも充分に整っておらず、その後の生活の中でも、歴史や伝統文化ないし文化財について身近に接する機会が限られた範囲にとどまっていること、また、現在の日本における暮らしの中では、伝統的な和風よりも西洋的なスタイルに馴染んでいることの方が多く、それが親近感の差異にもつながっていること、あるいは、博物館の場合には、どうしても学ぶ場所ないし小難しいところという意識が先に立ち、敷居が高いなどの先入観に妨げられてしまうこと、などなど。

 新館がオープンしたとはいえ、こうした情勢を直ちに打破できるわけではないだろう。しかし、最新の設備による上質な空間の中で、展示体系を刷新して佳品の数々を存分に鑑賞できるよう配置し、それに伴い、常設展示を「名品ギャラリー」と改め、音声ガイドを導入したり、観覧者と博物館との仲立ち役となるナビゲーター制度を発足したり、快適な座席を備えた講堂での催し物を充実させたりと、様々に工夫を凝らしながら、より多くの方々に博物館に親しんでいただけるよう、多角的な取り組みを推し進めているところである。

 博物館や文化財に触れることが、いかに潤いある豊かな心を育み、またそれがどれほど大切なことか、生まれ変わった京博に足を運び、ぜひ皆さんの眼で確かめていただきたい。

[No.184 京都国立博物館だより10・11・12月号(2014年10月1日発行)より]

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