あの鐘を鳴らすのは/京都国立博物館企画室長 伊藤信二

 4月に京都国立博物館に赴任してから、はや年の瀬と新年を迎えようとしている。過日、京博では長い伝統を有する「土曜講座」にデビューした。私はこれまでの研究員生活の中で、「梵鐘」に接する機会を多く得、特に九州国立博物館時代の4年5か月の間に、国宝2点、重要文化財7点を含む12点の梵鐘の展示に携わった。中でも平成22年(2010)、兄弟鐘として名高い京都・妙心寺鐘と太宰府・観世音寺の国宝鐘(いずれも飛鳥時代7世紀末期)を並べて展示、のみならず展覧会期間中の2日間に「鳴鐘会(めいしょうえ)」と題し、互いのご所蔵者が交互に鐘を撞き音色を競演する、恐らく史上初の試みに関わることができた。この鳴鐘会の様子をVTRに収め、当時展示会場で流していたものをDVDに落とした映像と音を、話の最後に披露する段取りであった。なので話の内容も、自身の梵鐘の展示経験とともに、音をテーマの一つに取り上げた。「今日もお寺の鐘が鳴る」と副題を付けた所以である。

 音源ももう少し必要かと、2か所で採集することとした。1つは江戸の市中に時を告げ、今も日に3回撞かれる上野の寛永寺の「時の鐘」(現在の鐘は天明7年(1787)鋳造されたもの)。東京出張の仕事を終えて上野公園に出向く。場所は西洋料理店「精養軒」のお隣。夏の終わりの夕間暮れ、ツクツクホウシが今を盛りと大合唱、金曜のこととて店前の人通りは多い。ボイスレコーダーの中で時の鐘の音色は優しく、セミと人々の声にまぎれがちであった。京都に戻った私は翌土曜日の夜、奈良に向かった。目当ては「奈良太郎」の別称でも有名な、東大寺の国宝の大鐘(奈良時代8世紀)である(近世初期に作られた豊国神社、そして知恩院の大鐘は、この奈良太郎の大きさと形式を襲っている)。上野とはうって代わり、鐘楼の辺りは秋虫がすだいている。20時きっかり、暗闇の中に奈良太郎の大音響が何度も空気を震わせた。さて講演会ではこれらの音をお聞きいただいた後、いよいよ兄弟鐘の競演を披露する場面となった。ところが、何度も事前リハーサルを行っていたにも関わらず、ディスクドライブが不調をきたし、当該の映像と音をお届けすることができなかったのだ。誠に慚愧にたえない。年明けの早い時期に、リベンジを果たさせていただきたいと思う次第である。

[No.193 京都国立博物館だより1・2・3月号(2017年1月1日発行)より]

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