特別展「聖地をたずねて─西国三十三所の信仰と至宝─」によせて──4度目の視点/
龍谷ミュージアム副館長 石川知彦

 想いもよらぬコロナ禍の中、予定より三ヶ月遅れとはいえ、西国三十三所展が無事に開催できたことは、主催者・観覧者ともに大いなる喜びであったろう。西国観音霊場三十三札所寺院をテーマとする展覧会は、実は今回が4度目で、最初に大阪で開催された展覧会の担当という理由で、筆者がこの欄の執筆者に選ばれたようだ。

 その1回目は1987年大阪市立美術館にて、花山法皇中興一千年記念としての展観、2回目は1995年、東京池袋にあった東武美術館と京都文化博物館との巡回で開催された展覧会、3回目が2008年奈良国立博物館と名古屋市博物館にて、花山法皇一千年遠忌を記念しての開催で、4回目の今回が、徳道上人による草創1300年を記念しての開催であった。同一テーマの展覧会が4回あると、それらを比較検討、分析したがるのは学芸員の悪い癖、三十三所の至宝や巡礼の魅力を語ってほしいのだろうなと想像しつつも、ここは筆者の身勝手にお付き合い頂けたらと思う。

 4回の展覧会をとおして、まず目に止まるのは、毎回新発見の文化財が複数加わり、何度開催しても観覧者を飽きさせない。例えば2回目では、清水寺の参詣曼荼羅、華厳寺の刺繡本西国三十三所観音像や播磨清水寺の大字法華経(新指定重文)などが新たに出品された。3回目ではさらに、圓教寺のかつての札所本尊である如意輪観音坐像、そして開山の性空上人坐像をはじめ、施福寺からは空海所縁の「舳先観音」と伝承される千手観音立像と千手陀羅尼経、清水寺奥院本尊の千手観音坐像(新指定重文)、善峯寺の法華経安楽行品などが初出品であった。そして今回は六角堂頂法寺の如意輪観音坐像二軀をはじめ、粉河寺本堂の「裏観音」千手観音立像、宝厳寺の聖観音立像、六波羅蜜寺の陸信忠筆十王図などが新規出品であった。また番外札所、元慶寺の梵天・帝釈天立像は、修復を終えて本来の素晴らしい姿を見せてくれた。三十三所寺院の宝物の懐の深さを改めて感じさせられる。

 次に注目すべきは、章立てや図録掲載の論文選定といった全体構成に関わる点である。2回目では、観音信仰研究の大家・故速水侑先生と、京都文博の学芸員・大塚活美氏による歴史系の各論2本が掲載されたのが特徴であろう。また3回目では、密教学の権威・故頼富本宏先生の総論に加え、「第四章 法華経」と「第六章 浄土」のテーマが立てられ、観音信仰をアジア全般から捉えようという新たなる視点が付加された。そして今回は、徳道による地獄巡りの説話にちなみ、補陀落浄土の対極にある「第2章 地獄のすがた」が設定された。また「第4章 聖地へのいざない」では、各札所の参詣曼荼羅が、伽藍の再興を促す古文書とともに展示されたのが新しい試みといえ、これは図録冒頭の総論「中世の文字資料からみた西国三十三所」とともに、主担者である羽田聡氏の本展覧会にかける思い入れが結実しているといえよう

 筆者が第1回目の展覧会を担当したのは、入社3年目。当時主任学芸員であった故阪井卓さんのもとで、若造が好きなようにさせて頂いた。これ以降、三十三所の札所寺院の皆さんから頂戴したご厚情は計り知れない。何度展覧会を開催しても色褪せず、次から次へと新発見の宝物が見出され、様々な新視点を我々に提供し続けてくれる三十三所寺院。さて次はいつ、どんな展覧会になるのか、今から楽しみである。

[No.209 京都国立博物館だより1・2・3月号(2021年1月1日発行)より]

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