−中国の吉祥文様− 龍袍
(−ちゅうごくのきっしょうもんよう− りゅうほう)

1月には、お正月にふさわしい、めでたい文様がデザインされた衣服を陳列することがあります。日本のきものにもいろいろな吉祥文様(きっしょうもんよう)がみられますが、お隣の中国でもさまざまな文様に吉祥の意を託し、人びとの幸福や長寿を祈りました。なかでも、清代(しんだい)(1616〜1912)に皇帝やその臣下が着た龍袍(りゅうほう)には、たくさんの吉祥文様があらわされています。

 宮廷という公の場で着る龍袍は、着る人の身分によって色が異なります。階級がはっきりと分けられた社会では、着ている人の位が一目でわかるように色分けされました。皇は明黄(めいこう)(黄色)、皇太子(こうたいし)は杏黄(きょうこう)(琥珀(こはく)色)、皇子(こうし)は金黄(きんこう)(オレンジ色)、それ以外の人びとは青色を着ました。女性の場合も、皇后(こうごう)は明黄、次の位の第2夫人は金黄などと区別されたのです。

 龍袍の文様は、その名のとおり龍が中心です。龍は言うまでもなく想像上の動物ですが、万能の神のごとく神格化され、めでたい兆しとなる最高の動物として人びとに敬愛されました。そして、その威厳に満ちた姿は世界を治める天子、すなわち皇帝のシンボルとして衣服を飾ったのです。龍袍には5本の爪と2本の角をもつ金色(こんじき)の龍が9匹います(襟や袖口の黒地にいる龍は数えません)。胸と背と両肩には正面を向いた4匹の龍、腰の前後には2匹の龍が向かい合っています。これで8匹です。もう1匹は、服の前を合わせた時、下になる部分に隠れています。ただし、身分の低い人は9匹目の龍をつけることができず、龍の爪も四本でした。

 天を駆ける龍のまわりは、雲でいっぱいです。この雲は形がきのこの一種である霊芝(れいし)に似ていることから霊芝雲と呼ばれ、不老を象徴する瑞雲(ずいうん)です。雲の間には卍(まんじ)や桃をくわえた蝙蝠(こうもり)が飛んでいます。この蝙蝠にも吉祥の意味があります。中国では富貴長命(ふきちょうめい)といった形にできないめでたい言葉を、漢字の音を借りて、形のあるものにあらわすことがありました。

 蝙蝠は、「蝠」が「福」と同じ発音であることから、幸福のシンボルとなるのです。「卍」は「万」と同じ発音ですから、蝙蝠が卍をくわえると「万福」です。桃は「寿」のシンボルであり、桃をくわえた蝙蝠は「寿福」を意味します。黄色い龍袍を見てください。



龍袍 金黄地綴織 <京都国立博物館蔵>


雲間を飛ぶ蝙蝠はどれも紅色(べにいろ)(ピンク色)です。どうして蝙蝠が紅色かというと、「紅」は「洪」に通じますから、「洪福至天(幸福が天にあふれる)」となるのです。その他にも篆書体(てんしょたい)の「寿」など見慣れない文様が散らされていますが、いずれも吉祥の意味をもつ文様です。
 龍袍の裾には大海原があらわされ、波の間から四方に山岳が突き山ています。この海と山との組み合わせは「海水江牙」と呼ばれ、山河すなわち国家を統一するという意味があります。また、海は宝蔵(ほうぞう)の源であり、それを示すように吉祥の意味をもつ「八宝(はっぽう)」が波間に漂っています。八宝、すなわち8つの宝物は、仏教や道教などによっていくつかの組み合わせがありますが、龍袍の波間に漂う八宝は仏教の伝説にもとづく宝物が多くみられます。

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[1] 妙なる音を出し気運を開く法螺(ほら)

[2] 円転してやまない法輪(ほうりん)

[3] 人びとを保護する宝傘(ほうさん)

[4] 人びとを病気や貧困から救う天蓋(てんがい)

[5] 汚泥に染まらず清らかな花を咲かせる蓮華(れんげ)

[6] 福智円満な宝瓶(ほうびょう)

[7] 堅固活発で邪悪を退ける金魚(きんぎょ)

[8] メビウスの帯のように終りがなく長寿を意味する盤長(ばんちょう)


どれがどれだかわかりますか。
 もう一度、龍袍全体を見てください。袍の大海には岩山がそそり立ち、海からうまれたかのように波間に八宝が浮かび、天は龍をはじめ、吉祥を寿ぐ文様で満ち溢れています。華麗な色彩と寓意に満ちた龍袍は、中国的な精神世界をあらわしているのです。



工芸室 河上(イラスト 普及室 市田)
1995年1月14

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