博物館ディクショナリー

密教法具(みっきょうほうぐ)

 京都(きょうと)には、真言宗(しんごんしゅう)や天台宗(てんだいしゅう)など密教のお寺がたくさんあります。これらのお堂をのぞくと、中央の壇(だん)の上などに見なれない形の仏具(ぶつぐ)が置かれていると思います。これらは、みな密教の修行(しゅぎょう)に必要な道具で、「密教法具(みっきょうほうぐ)」といいます。

  • 大壇
    大壇
    (現代 20世紀)<教王護国寺蔵>

 密教というのは、呪文(じゅもん)を唱(とな)え、仏を思い浮かべ、また「印(いん)」という事物(じぶつ)を象徴(しょうちょう)する形を指で組んで、さまざまな修行をすることで、悩(なや)み苦(くる)しみから自分を解放(かいほう)し、あわせて人々の願いをかなえようとする教えです。古代(こだい)インドに興(おこ)った密教は、中国(ちゅうごく)をへて日本にも伝えられました。奈良時代(ならじだい)には、密教の仏である観音菩薩(かんのんぼさつ)の像が各地の寺で造(つく)られ、また山の中で修行する坊(ぼう)さんもたくさんいました。そのような坊さんの中で空海(くうかい)と最澄(さいちょう)という二人が、平安(へいあん)時代初めころ中国の唐(とう)にわたり、体系(たいけい)だった密教の教えを日本に持ち帰りました。たくさんのお経や仏の図などとともに、修行に用(もち)いるさまざまな法具も日本にもたらしたのです。

 こちらの密教法具は、このようにして中国から伝えられたものを手本(てほん)にして、平安時代から鎌倉(かまくら)時代にかけ制作(せいさく)され、あちこちの密教寺院(じいん)で用いられてきたものです。例えば、角(つの)のような尖(とが)り(鈷〈こ〉といいます)のついた金剛杵(こんごうしょ)。鈷の数によって、独鈷杵(とっこしょ)・三鈷杵(さんこしょ)・五鈷杵(ごこしょ)などと呼び、宝珠(ほうじゅ)をつけたものを宝珠杵(ほうじゅしょ)と呼びます。

  • 独鈷杵
    独鈷杵
    (鎌倉時代 13世紀)
    <聖衆来迎寺蔵>
  • 三鈷杵
    三鈷杵
    (鎌倉時代 13世紀)
    <東福寺蔵>

実を言うと、その形は古代インドの武器(ぶき)をもとにしたもので、密教では行者(ぎょうじゃ)の身を護(まも)るという意味をもつ大切な道具ですから、行者は常にこれを手に持って修行を行います。中国からの品や平安時代に作られた古い金剛杵は、鈷の先がたいへん鋭(するど)く尖り脇鈷(わきこ)が強く張って、武器のなごりをよく残していますが、鎌倉時代を過ぎるころには、鈷先が丸くなり、張りもなくなってしまいます。長い間、同じ形のものが作られていくうちに、本来の形の意味が忘れられていったのでしょう。

  • 五鈷杵
    五鈷杵
    (平安時代 12世紀)
    <細見美術財団蔵>
  • 五鈷杵
    五鈷杵
    (鎌倉時代 12世紀)
    <細見美術財団蔵>

 さて金剛杵の他には、杵形(きねがた)の持ち手をつけた鈴(すず)、金剛鈴(こんごうれい)があります。

  • 五鈷鈴
    五鈷鈴
    (唐時代 9世紀)
    <教王護国寺蔵>

これは、修行中に行者が手に持ち、実際に鳴らすものです。密教の仏はたいへんたくさんの数がありますが、行の始まるときにこれらの仏を呼び、また終わるときに仏を送るために、この鈴を鳴らすのです。もっとも、行で鳴らすのはたいていの場合五鈷杵(ごこれい)だけで、これと金剛杵がセットで金剛盤(ばん)という台の上に置かれ、行者の前に配置されます。

 金剛鈴には、金剛杵と同様に独鈷鈴・三鈷鈴・五鈷鈴・宝珠鈴・宝塔(ほうとう)鈴という五種類があり、それぞれが密教のもっとも中心となる五つの仏、五智如来(ごちにょらい)を象徴していると言われます。

  • 五種鈷鈴
    五種鈷鈴
    (平安時代 12世紀)
    <尊永寺蔵>

これらは大壇(だいだん)と呼ばれる修行の壇上に、大日如来(だいにちにょらい)を象徴する宝塔鈴をまん中にして。その東西南北に置かれます。ですから、行者はまさに仏を目の前にして、修行を行うというわけです。

 これら以外にも、密教に用いられる道具は、いろいろな種類があり、それぞれに形と意味がきちんと決められています。そして、密教が伝えられて1200年余りたった現在でも、ちゃんと使い続けられているのです。みなさんも、密教のお寺を訪(おとず)れることがあったら、これらお密教法具が、どのような場所でどのように使われているか、ぜひ観察してみてください。きっと、いろいろな発見があると思いますよ。

工芸室 久保
1995年6月10日

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