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地下に願いを
美術室 大谷 弦
2026年07月14日
タイムカプセルを埋(う)めたことはありますか? 大切な人からの手紙や思い出の品を土の中に埋めて「未来」へ届(とど)けるタイムカプセルは、実は現代だけのものではありません。大切な品々を地中に埋める行為(こうい)は、はるか昔から繰(く)り返し行われてきました。
埋納(まいのう)って何?
地面の下から発掘(はっくつ)されるものは様々です。恐竜(きょうりゅう)の骨(ほね)や、人が食べたあとに捨(す)てられた貝殻(かいがら)など、かつて地上に存在(そんざい)していたものが、長い時間の中で土の中に埋もれて、ひょんなことから見つけ出されることがあります。こうした、たまたま土の中に埋まってしまったものではなく、タイムカプセルのように人が目的をもって土の中にものを埋めることがありました。これを「埋納」と言います。
何を埋納した?
埋納されたものは、時代や場所により様々です。例えば古墳(こふん)時代には、建物(たてもの)を建(た)てる時や壊(こわ)す時に、柱(はしら)を立てる穴(あな)に土器を埋納する例が多く見られます。やがて仏教(ぶっきょう)が日本に伝わると、各地に多くのお寺が建てられました。奈良(なら)県明日香(あすか)村にある飛鳥寺(あすかでら)では、飛鳥時代に建てられた塔(とう)の跡(あと)から仏舎利(ぶっしゃり)(お釈迦さまの骨)や、おごそかにするための飾(かざ)りが見つかっています。
奈良(なら)時代の平城京(へいじょうきょう)には、人が多く行(ゆ)き交(か)う場所に胞衣壺(えなつぼ)が埋納されました。胞衣とは、赤ちゃんがお母さんのお腹(なか)の中にいるときに、お母さんから栄養(えいよう)をもらう胎盤(たいばん)のことです。胞衣壺には、胎盤とともに筆(ふで)や墨(すみ)、刀子(とうす)(ナイフ)が埋納された例もあります。
平安(へいあん)時代の終わりごろには、仏教の教えを記したお経(きょう)を埋納する経塚(きょうづか)が造(つく)られるようになりました(図1)。お経と聞いて思い浮かべるのは、紙に墨で書いたお経でしょう。しかし、紙を土の中に埋納すると、時間が経つとぼろぼろになってしまいます。そこで、紙よりも丈夫(じょうぶ)な素材(そざい)に、お経を書くことが行われました。たとえば、粘土(ねんど)板に書いた瓦経(がきょう)(図2)や、薄(うす)い銅の板に書いた銅板経(どうばんきょう)などがあります。
図1 瓦質外容器(がしつがいようき)・銅製経筒(どうせいきょうづつ)
出土地不明 京都国立博物館蔵
図2 瓦経(がきょう) 福岡市西区飯盛山経塚出土 京都国立博物館蔵
何を願って埋納した?
土の中から発見されたものが、どのような理由で埋納されたのか、私(わたし)たちは知りたいと思いますが、それはそう簡単(かんたん)なことではありません。例えば、先ほどの胞衣壺に筆や墨などの文房具(ぶんぼうぐ)が納(おさ)められた理由も、これらが役人の持ち物であったため誕生(たんじょう)した子どもの出世(しゅっせ)を願っての埋納であろうと考えられていますが、はっきりとは分かりません。
しかし埋納品の中には、埋納した目的や理由を書き記しているものもあります。経塚に埋納されたお経の容(い)れ物(もの)には、何を願ってお経を埋めたのかがしばしば書かれています。そこには、56億7千万年後という気の遠くなるような未来にまで、埋納するお経を伝えることが願われています。過去に生きた人々が、願いを言葉や形にして、地面の下に埋めておいてくれたおかげで、今を生きる私たちは彼(かれ)らの願いを知ることができるのです。(図3)の絵瓦(えがわら)には、両手を合わせて祈(いの)りをささげる人の姿(すがた)が表されており、これは願いを込めてお経を埋納したお坊(ぼう)さんの姿であると考えられます。あなたは、どんな願いを地下に残したいですか?
図3 線刻瓦(せんこくがわら)(僧形)(そうぎょう)
京都市西京区樫原盆山出土 京都国立博物館蔵
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