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No.73

東日本大震災—文化財レスキュー

京都国立博物館考古室長

宮川 禎一

 平成二十三年三月十一日の東日本大震災には皆さんそれぞれに経験と想いがあることでしょう。

 この東北地方の博物館・美術館等の施設が収蔵していて地震や津波の被害を受けた美術品や文化財を救出するために五月から七月にかけて宮城県内での文化財のレスキュー活動がおこなわれました。東京文化財研究所を中心に博物館や文化財関係諸機関によって組織され、地元自治体や大学と連携して救援活動を行っていました。私は短期間ですがそれに参加しましたので経験を記します。

 七月中旬に仙台駅に降り立ちました。仙台市内は一見平穏にはみえましたが、よく見れば建物のひび割れなどがあちこちに見られます。とくに大学の古い煉瓦造建物には問題が多いように見受けました。神社境内の石灯籠はまだ倒れたままのものも多くありました。

 文化財レスキューの拠点は青葉城の下、仙台市博物館に置かれました。毎朝集合し、八名程度でチームを組んで、宮城県内各所へ車で移動して活動を行いました。その具体的な作業は、津波で海水に浸かった民俗考古資料等を、比較的安全な仙台市内の文化施設や大学博物館等の収蔵庫へ移動搬入することにありました。この時いっしょに作業にあたったのは東京文化財研究所、奈良文化財研究所、九州国立博物館、文化庁美術学芸課、それから地元の大学関係者などでした。さまざまな材質形状の近世民具・漁具などを記録し、台帳化し、整理番号を付け、梱包し、トラックに積み込み、降ろし、収蔵場所に運び、棚に入れたりする作業でした。

 東北大学では石巻文化センターから掘り出された海水と汚泥にまみれた縄文土器片の入った大量のコンテナの上げ降ろしに汗を流しました。

 また宮城県南部の亘理町では地震で壊れた個人宅の土蔵から運び出され、地元の文化施設に避難してきた美術工芸作品の整理作業(写真)をおこないました。

 石巻市の牡鹿町での作業は仙台市から三時間ほどもかけての自動車移動となります。津波被害の甚大だった石巻市沿岸部を通過する際には心が痛みました。撮影もためらわれるほどの惨状です。瓦礫は撤去できても、ここで生活を再建することが可能かどうか、とても重い現実です。

 宮城県内での文化財レスキューの活動は約三ヶ月間にわたり作業が行われました。もちろん先々には様々な事情があることですし、作業そのものは宮城県や地元自治体・大学へと徐々に引き継がれたのです。海水を被った木製民具などは仮収蔵先の大学の学生らの手により洗浄乾燥などが行われます。

 今回、その現状を目の当たりにして、被災した文化財や美術品などを今後どのように保護・保存していくのか。長期にわたる大きな課題であることを痛感いたしました。

 作業を終えて京都に戻る日の午前中、松島や瑞巌寺を訪ねましたが、遊覧船の乗客はまだまだ少なく、えさを待つカモメも寂しげな様子。東北を旅行するという支援ももっと盛んになるべきではと感じた次第です。

[No.173 京都国立博物館だより1・2・3月号(2012年1月1日発行)より]

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