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十二類絵巻(じゅうにるいえまき)
美術室 若杉
1993年09月11日
文字だけではなかなか読みにくい物語も、絵があるとずいぶんわかりやすくまた魅力的になります。マンガの面白さは、そうしたことをよくあらわしています。今ではマンガですが、昔の人は絵巻というもので物語を興味深く鑑賞していました。絵巻は、マンガと少しちがって、最初に文字(詞(ことば))で物語を書き、そのあとにその内容を絵に表わしたものをついで巻物に仕立てています。絵巻に取り上げられる物語は、源氏物語のような平安(へいあん)時代の代表的な小説から、お寺や神社の縁起(えんぎ)、お坊さんの伝記(でんき)などさまざまですが、室町(むろまち)時代には子供たちにもわかるおとぎ話の絵巻も作られるようになりました。ここではそんなおとぎ草紙の絵巻を取り上げています。
ここでは動物たちが活躍するおとぎ話の一つである「十二類絵巻(じゅうにるいえまき)」について詳しくみることにしましょう。
まず、あらすじを紹介します。十五夜(じゅうごや)の夜、鼠、牛、虎などの十二支(じゅうにし)の動物たちが、和歌のコンテスト(歌合(うたあわせ))をしました。その時に審判(判者(はんじゃ))になったのは鹿でしたが、これが終った後の宴会でたいそう大事にもてなされました。
この時鹿についてきた狸が、これをうらやましく思い、次の会では審判をやりたいと申しでます。ところが十二支に散々に馬鹿にされて追い払われてしまいます。
このことを怨んだ狸は、仲間の狐、烏、ふくろう、猫、いたちなどを集めて、十二支の動物たちに戦(いくさ)を仕掛けます。ところが、十二支の動物たちはとても強く、狸側はやっつけられてしまいます。そこで、狸は鳶(とび)の勧めで夜襲(やしゅう)を仕掛け、一度は勝つのですが、体勢を立て直した十二支軍に敗れてしまいます。
狸は鬼に化けて十二支を驚かそうとしますが、犬に見破られて逃げてしまいます。そして世の無常を悟り、妻子と別れ出家し、えらいお坊さんについて頭を剃り、お坊さんになってしまいました。
この絵巻は物語の内容も面白いのですが、動物たちの描き方に、昔の人の動物に対する考え方が出ていることも面白い点です。たとえば蛇が女性になっていることや十二支の大将が龍になっていること、そして狸方にされた動物が、ずるそうに描かれていることなどです。またことばの中には洒落がたくさん見られます。絵巻の文字は昔のことばと文字なのでとても読むのは難しいと思いますので、例を出してみると、最初の歌の会で詠まれた歌の一つに
蛇 月巳(つきみ)れば憂(う)きもわすれて秋(あき)の夜(よ)を長(なが)しと思(おも)ふ人(ひと)やなからむ
(歌の意味:月を見ていると嫌なことも忘れてしまう、だから月の美しい秋の夜を長いと思う人はないだろう)
とあって、「見れば」にわざわざ「巳」の字をあてたり、「長い」という言葉を入れたりしています。この蛇は、歌合のあとの宴会では「お酒をお腹一杯飲んじゃった、早く着物を脱いで長くなって寝たいわ」と言うのです。
この絵巻の文を書いた人も絵を描いた人もとてもユーモアにあふれていた人でしょう。
負けた狸が出家するために家族と別れる場面では、親狸の袖を引っ張る子狸の姿がとても哀れで「父ちゃん、行っちゃ嫌だ」という涙声まで聞こえてきそうです。
一方お寺の中で腹鼓を打ちながら念仏する狸の姿には、深刻さはなく実に気楽な気分があふれています。
現代では、「マンガばかり見てないで勉強しなさい」と言われますが、昔の子供も「絵巻なんか見てないで・・・・・・」と言われたんでしょうか。