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貴族のきものを飾るデザイン(きぞくのきものをかざるでざいん) ―有職文様の世界(ゆうそくもんようのせかい)―
工芸室 山川 曉
2016年02月05日
みなさんが服を選(えら)ぶとき、気にしているポイントはどこでしょう?スタイル良(よ)く見える形?それとも色?柄(がら)という人もいるのではないでしょうか。今回は、この柄、つまり衣服(いふく)の文様(もんよう)のうち、日本の貴族(きぞく)が用いてきた有職文様(ゆうそくもんよう)について考えてみたいと思います。
百人一首の札(ふだ)でもおなじみの、日本の貴族の格好(かっこう)[写真1]。現代(げんだい)の和服とは違(ちが)って、袖(そで)が長く、袖口(そでぐち)も大きく開いています。日本の民族衣裳(みんぞくいしょう)といえば和服なのに、おかしいなと思う人もいるのではないでしょうか。実は、和服はこのような衣服の下着であった小袖(こそで)から発達(はったつ)したものです。
さらにじっくり文様を見ていきます。和服のように花や鳥が絵画的(かいがてき)に描(えが)かれているのではなく、繰(く)り返(かえ)し文様です。これは、現代の和服が、織(お)り上がった生地のうえに染(そ)めや刺繡(ししゅう)で文様をあらわしているのに対して、公家装束(くげしょうぞく)つまり貴族が用いてきた衣服では、最初(さいしょ)から文様が織り出された織文様の生地を用いるからです。織機(しょっき)という、当時でいえばコンピューターに匹敵(ひってき)するほど最先端(さいせんたん)の機械(きかい)を用いてしか製作(せいさく)できない織物(おりもの)は、貴族しか着用できない高級品でした。
この公家装束は、奈良(なら)時代に中国から学んだ衣服の制度(せいど)をもとに、平安(へいあん)時代に完成(かんせい)したもので、宮廷(きゅうてい)に出勤する時に着る服でした。そのため、着用する人の位(くらい)や立場によって、色や柄が定められていました。宮廷では好(す)きなものを自由に着ることはできなかったのです。ここではそのうち、天皇(てんのう)が身に着けた二種類(しゅるい)の文様を紹介(しょうかい)しましょう。
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[図1]桐竹鳳凰文様(きりたけほうおうもんよう)
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[図2]小葵文様(こあおいもんよう)
ひとつ目は、天皇が着用する袍(ほう)という衣服にしか用いることが許(ゆる)されなかった、桐竹鳳凰(きりたけほうおう)文様[図1]。間隔(かんかく)を空けて配置(はいち)する散(ち)らし文様です。長方形にまとめられたこの文様は、花咲(さ)く桐(きり)と竹を中心に、空には飛(と)び交(か)う鳳凰を、地には向かい合う麒麟(きりん)を配したもの。鳳凰(ほうおう)も麒麟(きりん)も、中国の伝説にあらわれる世の中に平安をもたらす動物で、鳳凰は桐の木に宿り竹の実を食べるとされています。世の中が正しく治(おさ)まっている時にあらわれる鳳凰や麒麟は、王者を示(しめ)す特別(とくべつ)な文様でした。もちろん、桐に鳳凰という組み合わせは、格調(かくちょう)高い文様として庶民(しょみん)の衣服にも取り入れられていきますが、この長方形にまとめられた文様は、天皇にしか許されない特別なものでした。
ふたつ目は小葵(こあおい)文様。天皇だけが用いた文様ではありませんが、天皇が着用する御引直衣(おひきのうし)という衣服に用いられました。こちらは繰り返しによって全体をおおう文様です。四枚(まい)の葉で構成(こうせい)されたひし形の中央に花を置(お)いた文様ですが、中央の花をゼニアオイの花と見立て、小葵という名前が付けられたといいます。
このほかにも、立涌文(たてわくもん)、丸文、菱文(ひしもん)、亀甲文(きっこうもん)、窠文(かもん)など、公家装束には特有(とくゆう)の文様が用いられてきました。これらをまとめて有職(ゆうそく)文様と称しています。それぞれの文様に名前が付けられ、時にはそこに意味が隠(かく)されているなんて、文様ひとつとっても伝統(でんとう)文化は奥深(おくぶか)いですね。