馬—力強く、美しい相棒（あいぼう）

身近にいた馬

馬を近くで見たことがありますか？　京都に住んでいる人は、葵祭（あおいまつり）や時代祭など、お祭りの行列や、上賀茂神社（かみがもじんじゃ）で行われる賀茂競馬（かもくらべうま）で見たことがあるかもしれませんね。今は特別な場所・行事でしか見かけなくなった馬ですが、昔は、人の身近にいる存在（そんざい）でした。人が馬を飼いならすようになったのは、約5,500年前だと言われています。海を渡（わた）って日本に馬が連れてこられたのは、今から1,600年ほど前、古墳時代（こふんじだい）だと考えられています。馬は力が強く、足が速い動物です。そのため、自動車やさまざまな機械が使われるようになる前は、人を乗せて走ったり、重たい荷物を運んだりと、世界各地で人を助けてきました。昔（むかし）の暮（く）らしを描（えが）いた絵を見ると、あちこちに馬の姿（すがた）を見つけることができます。

立派（りっぱ）な馬は、立派な人のしるし

馬は人を助けてくれるだけでなく、とても魅力的（みりょくてき）な姿（すがた）をしています。すらりと伸（の）びた首や、筋肉（きんにく）のたくましい足、風になびくたてがみは美しく、優雅（ゆうが）で堂々としています。人は、その美しさにも心惹（こころひ）かれてきました。それぞれの時代、それぞれの地域（ちいき）で力を持った人は、優（すぐ）れた馬を求め、自分のものにしました。立派な馬を持つことは、立派な人のしるしでもあったのです。

図1　重要美術品 　三彩馬俑
中国・唐時代（8世紀）
京都国立博物館蔵（錢高衣子氏寄贈）　

図1は、今から1,200年ほど前の中国のお墓から見つかった、やきものの馬です。緑・明るい茶色・白・黒の組み合わせが、とても華（はな）やかです。この頃（ころ）の中国では、えらい人が亡（な）くなると、人や動物、道具など、身の回りのものを木や土でかたどり、一緒（いっしょ）にお墓に埋めました。「死後の世界でも同じように暮（く）らせるように」と願いを込（こ）めたのです。
この2頭の馬は、お墓に眠（ねむ）る人が生きていた時に乗った馬を写したものかもしれません。馬に乗るために必要な道具だけでなく、たくさんの飾（かざ）りがついています。それぞれ違（ちが）う形に整えられた、オシャレなたてがみにも注目してください。豪華（ごうか）に飾り立てられた立派な馬は、この馬の持ち主が、とても力を持った人であったことを示しています。

あこがれの馬

日本でも、特に武士にとって馬は欠かせない存在でした。図2は室町幕府（むろまちばくふ）の最初の将軍（しょうぐん）、足利尊氏（あしかがたかうじ）がいつも戦（いくさ）の時に乗っていた馬を描いたものです。馬に乗った尊氏の絵があり、そこから馬だけを写して描いたそうです。この絵を描かせたのは、室町幕府の11代目の将軍、足利義澄（あしかがよしずみ）です。義澄は、この絵をいつも身近に置いていました。あこがれのご先祖様を思い浮（う）かべ、力を貸してほしいと願ったのかもしれません。

図2　重要文化財　駿馬図　景徐周麟賛
室町時代（15～16世紀）
京都国立博物館蔵

ここに尊氏は描かれていませんが、いつも一緒だった馬を描くことで、馬の持ち主を想像させることができたのです。それほど武士と馬には強い繋（つな）がりがあったことが分かります。

もちろん武士だけでなく、いろいろな人が馬と関わってきました。美術作品には、ほかにもスポーツで活躍（かつやく）する馬や、神様に捧（ささ）げられた馬なども登場します。馬と人との繋がりを感じながら、作品を見てくださいね。

博物館ディクショナリー244号「馬—強く、美しい相棒」PDF版