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No.24

よみがえる小袖

河上 繁樹

 今秋の特別展覧会『花洛のモード』に合わせて、いくつかのことを企てた。その一つが小袖の復元であった。

 "京都国立博物館だより"119 号(1998年夏)で桃山時代の辻が花染打敷をご紹介した。平成9年度に当館が購入した打敷である。打敷は寺院堂内の仏前の卓に掛けて荘厳する布であるが、時に死者の供養のために生前に愛用した小袖を打敷に仕立て替えて用いることがあった。当館が購入した打敷もそうしたものであり、もともとは小袖であった。しかも桃山時代の稀少な辻が花染である。

 すでに400 年余りの時を経ているので、保存状態は良くない。あちらこちらが破れていて、いずれは修理をしなければ、今後、展示にも十分に活用できなくなりそうだ。そこで、まずは修理することにした。修理の時には、いったん打敷を解きほどく。それならば、修理を終えた段階でもとの小袖に戻したらどうだろうか。

 この打敷には、小袖の身頃と袖が使われている。身頃は前と後ろの4枚がまるまる残っている。袖は一部が欠けているが、袖幅や袖丈もわかる。ないのは衽と襟だ。この部分をつくれば、もとの小袖が復元できる。

 修理と同時に欠失部分の復元作業に入った。幸いにも京都にはまじめな辻が花を染める人がいる。身頃の図柄にあわせて、衽と襟の下絵を描いてもらい、絞り・染めの工程に進んだ。今年の7月半ばに、ようやく染め上がってきた。オリジナルの気分がそこなわれずにいい具合に仕上がっている。流石だ。

 だが、染め上がったばかりの絹は、あまりにも綺麗すぎた。400 年も前のオリジナルには汚れや変色がある。オリジナルと復元された絹を一枚の小袖に仕立て合わせると、どうしても違和感が生じる。忍びないが復元された辻が花に古色をつけることになった。古色といえば聞こえは良いが、早い話しが汚すのである。その仕事を引き受けて下さった方曰く「こんな仕事、はじめてですワ」。いつもは色をあわせ、きものを綺麗にするのがお仕事である。わざわざ汚せという注文を受けて、少々困惑気味。それでも8月には上手に汚された辻が花ができた。

 いよいよ仕立てに入る。8月末、2年がかりの修理・復元作業が終わった。やや小振りな小袖は、肩と裾を松皮菱取りに染め分けた肩裾風で、肩に亀甲、裾に桧垣を絞り、白く残した胴の部分には藤棚と雪輪の文様を散らしている。亀甲や桧垣のなかの墨の描絵と胴の藤棚から垂れ下がる長い房の藤の花の絞りがこの小袖の見どころである。見事によみがえった小袖は、今秋の『花洛のモード』でカムバックする。

[No.124 京都国立博物館だより10・11・12月号(1999年10月1日発行)より]

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