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No.23

敦煌写本発見百周年へ

赤尾 栄慶

 今年の1月、中国・北京の首都師範大学から私のもとへ一通の手紙が届いた。中をあけると、来年の西暦2000年6月21日から25日まで、北京の首都師範大学を会場として、同大学と中国敦煌吐魯番学会の共催で「紀念敦煌蔵経洞発現一百周年国際学術検討会」が開催され、併せて敦煌文物の展観も行われるという内容であった。

 案内状によれば、王道士によって現在の第17窟から敦煌写本が発見された日は、光緒26年(1900)6月22日ということになっており、そこでその日をはさんで、会期が設定されたのである。 敦煌写本といえば、昨年の七月に亡くなった藤枝晃先生のことが思い出される。私が博物館に奉職して一年ちょっと経った、昭和61年1月22日の朝日新聞の第一面に「京都国立博物館所蔵敦煌写本多数ニセ物と鑑定」との見出しが踊った。何しろ、その頃はまだ右も左もわからない時だった。それ以来、偽写本の存在を視野に収めた敦煌写本の研究は、館蔵品のこともあり、避けて通れぬテーマとなった。 その藤枝先生と初めてお会いしたのは、林屋辰三郎先生が館長をなさっていた時であり、藤枝先生来館の折、林屋先生が私を館長室にお呼びになり、「あなたはこの先生に敦煌写本のことを習いなさい」と紹介して下さった。その林屋先生も藤枝先生より五ヶ月早く昨年の二月に亡くなった。

 藤枝先生の敦煌写本に偽写本ありという主張は、ようやく世界の学会を動かし始め、1993年に偽写本という問題をも含みつつ、敦煌写本を中心とした敦煌学の領域についての世界的なプロジェクトであるInternational Dunhuang Project(国際敦煌学プロジェクト)が大英図書館内に設立された。そして、二年前の平成9年(1997)の6月30日から7月2日にかけて、そのIDPの主催によりロンドンの大英図書館東洋写本部に於いて「二十世紀初期における敦煌写本の偽物について」というワークショップが開かれた。これは、敦煌の偽写本についてイギリス・フランス・ロシア・中国・日本などの関係する研究者が集まって、初めて公式なかたちで偽写本について発表・討論を行ったものである。私も藤枝先生をはじめとした日本の研究者の一人に加えていただき同席したが、敦煌写本の世界二大コレクションの一つであり、敦煌写本研究の基準となってきたスタインコレクションに、その第三次探検分の中とはいえ、偽写本が多数存在するという事実が公表された時には大きな衝撃が走った。これは、云うまでもなく敦煌写本の研究史の上で画期的なワークショップであった。

 その延長線上にあるのが、来年、北京で開催される国際学術検討会であろう。この国際学術検討会では、今世紀の敦煌写本研究の総括と来るべき二十一世紀の展望、そして大きなテーマとなるのが偽写本の存在と写本の保存修理に関する問題であると思っている。2000年という年は何かと注目を集めているが、「敦煌学百年」の歩みも確実に近づいている。

[No.123 京都国立博物館だより7・8・9月号(1999年7月1日発行)より]

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