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No.63

謎多き「三角縁神獣鏡」

村上 隆

 「三角縁神獣鏡」の話をしましょう。鏡の縁の断面が三角形をしているので「三角縁」と呼ばれます。三角縁神獣鏡といえば、「卑弥呼」。まるで、枕詞のようにセットで語られることが多いですね。中国の魏に貢ぎ物を送った邪馬台国の女王卑弥呼は、「親魏倭王」として銅鏡100枚を授かったといいます。この銅鏡にあたるのが三角縁神獣鏡ではないかというわけです。しかし、三角縁神獣鏡は、すでに400面以上の存在が確認され、どこで、誰が、何のために作ったのか、まだまだ多くの謎を秘めています。だからこそ古代へのロマンをかき立てられるのでしょう。

 皆さんがよく目にする神様や獣たちの立体的な文様があるのは、鏡の裏面です。表の面は今では錆びていますが、作られた当初はピカピカに磨かれていました。面白いことに、三角縁神獣鏡の多くは表の面が凸面をしています。そして、驚くほど薄く仕上げられているのです。この鏡に何を映したのでしょうか。興味が尽きないですね。

 三角縁神獣鏡の材質は、銅とスズの合金である青銅で、鉛も数%は含まれています。スズを20%以上も含むため、たいへん硬くて脆く、そして金色をほのかに帯びた銀灰色をしています。錆びて緑青に覆われた今の姿とはずいぶん印象が違いますね。あらかじめ用意した鋳型に、熔けた青銅を流し込む鋳造技術で作りますから、同じ鋳型から同じ形の鏡を作ることも可能です。三角縁神獣鏡には、いわゆる「同笵鏡」、あるいは「兄弟鏡」と呼ばれる同じ文様を持つグループがいくつもあります。同じ文様を持つ三角縁神獣鏡が実際にどうやって作られたのか、これまた大きな問題なのです。

 私は、かねてから三角縁神獣鏡を科学的に調査しています。京都国立博物館に保管されている三角縁神獣鏡の中の一枚、牛谷天神山古墳(兵庫県高砂市)出土の鏡も調べる機会がありました。この鏡は、1993年に西求女塚古墳(兵庫県神戸市)から新たに出土した鏡の1枚と兄弟鏡なのです。三次元レーザー計測によって2枚の鏡の文様面の形状を詳しく調べると、たいへん興味深いことがわかりました。双方は文様の細部までよい一致を示しますが、紐を通す中央の大きな高まり、「鈕」の部分にだけ違いがありました。牛谷天神山古墳出土の鏡の鈕が、全体に1㎜程度小さいのです。鏡は研磨して仕上げますが、鈕だけを1㎜も削るのは少し奇妙ですね。ここに、兄弟鏡の製作技術を探るヒントがあるのかもしれません。鋳型を作るときに、鈕、文様、文字、縁とそれぞれの部分を別に作ったことも想定されます。はたしてその真相はどうなのでしょう?

 まだまだ謎に満ちた三角縁神獣鏡、これからも研究は続きます。

[No.163 京都国立博物館だより7・8・9月号(2009年7月1日発行)より]

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