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No.108
来館者と博物館の間に―京博ナビゲーター―
京都国立博物館主任研究員
水谷 亜希
ミュージアム・カートで活動する京博ナビゲーター
水色のストラップの名札に、親しみやすい笑顔。展示に関連した体験が出来るミュージアム・カートやワークショップで、いつも楽しそうに来館者とお話をしている。平成知新館のオープンとともに活動を開始して6年、当館の日常の風景になっていた「京博ナビゲーター」の活動が、まさかこんな形で中止になるとは想像もしていなかった。
2020年2月26日、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ボランティアスタッフであるナビゲーターに「ひとまず3月9日までの活動中止」をお知らせした。この時はまだ、事態がそれほど長引くと考えていなかった。再開に備えて次のワークショップの準備などを進めていたが、予想に反して状況は好転せず、活動再開は延期され続けた。
5月25日に緊急事態宣言が解除され、このまま収束すればナビゲーターの活動もできるかと期待したが、6月、感染者数は再び増加の一途を辿る。そうした状況を踏まえ、7月6日、ワークショップ中止のお知らせをナビゲーターに送信することになった。
実は特別展「聖地をたずねて―西国三十三所の信仰と至宝―」のワークショップは、第2期ナビゲーターの任期の最後の活動だったのだ。中止のお知らせを送りながら、落胆するナビゲーターの顔を想像し、胸が痛んだ。活動の最大の柱である「さわる・話す」が安心してできるようになるまで、年単位の時間がかかると予想した上での苦渋の決断だった。
京博ナビゲーターは、「来館者に文化財の魅力を伝える」という当初の目的を超え、博物館と来館者の橋渡し役として、気づけば大きな存在になっていたと感じている。私たちに来館者の生の声を届けてくれるだけでなく、当館のヘビーユーザーとしてのナビゲーター自身の言葉から、気づかされることも数多くあった。
海外から来て熱心に質問する人がいること、毎日のように通う常連さんがいること、目が見えない人もミュージアム・カートを楽しんでくれたこと。それらは来館者数をカウントするだけでは決して分からないし、ポジティブな意見が反映されづらいアンケート用紙からも得難い情報だ。そうした嬉しいエピソードを知ることが出来たのも、いつもナビゲーターを通じてだった。
教育室では現在、印刷物やウェブなど、人同士の接触のない方法で展示の魅力を伝えようと四苦八苦しているが、この先の展示スケジュールを眺めながら、「ナビさんがいたらこんなことができたのに」とついつい考えてしまう。再びナビゲーターと一緒に、さわったり、近くで話したりできる喜びを噛みしめながら、活動ができる日が来ることを祈っている。
[No.208 京都国立博物館だより10・11・12月号(2020年10月1日発行)より]