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縄目(なわめ)に注目してみると
考古室 石田 由紀子
2024年01月02日
縄文時代(じょうもんじだい)や縄文土器の「縄文」って?
縄文時代は、今から約16,000年前から2,400年前まで続いた時代のことを指します。そのころ、日本列島に住んでいた人々は、土器を作って煮炊(にた)きをし、木の実を主食に、弓矢や漁具、石器を使って狩りをしたり魚や貝をとったりしていました。このような縄文時代の生活を縄文文化と呼(よ)び、この時代に作られていた土器を縄文土器と呼んでいます。縄文時代、縄文文化、縄文土器…、これらに出てくる「縄文」は何を指すのでしょうか。「縄文」とは、土器につけられた縄目文様のことを指します。この時代の土器には縄目があることが多いので、時代や文化を表す名前にもなりました。土器に縄文をつける例は草創期(そうそうき)の後半にはすでにみられ、なくなったり、ふるわない時期や地域(ちいき)があったりするものの、縄文時代全時期を通して日本列島全体でみられます。このことから、縄文人にとって縄文は、大切な意味があったものと思われます。
時代とともに移り変わる縄文
縄文土器の縄文は、土器の表面に縄を転がしたり、押(お)し付けたりして文様(もんよう)がつけられています。縄文があることで、土器の表面に凸凹(でこぼこ)とした立体感が現れ、シンプルですが独特の魅力(みりょく)が生まれます。縄文には、地域や時代によってさまざまな種類があります。
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図1 深鉢 青森県八戸市南郷出土 縄文時代前期(円筒下層式)
京都国立博物館蔵 -
図2 深鉢 出土地不明 縄文時代中期(栃倉式)
京都国立博物館蔵
ここでは京都国立博物館所蔵(しょぞう)の縄文土器を縄文に注目しながら観察してみましょう。 前期の深鉢(ふかばち)(図1)は、ずん胴(どう)の形が特徴(とくちょう)です。全面に縄文があり、まさに縄文が主役の土器です。胴(どう)の部分は複数の棒(ぼう)に縄を絡(から)めた複雑(ふくざつ)な道具を転がして文様をつけています。ふちの部分は縄を押し付けて文様にしています。前期はさまざまな縄文のより方が生み出された時期です。
一方、当館の縄文土器のなかでもひときわ目を惹(ひ)く、大きな突起(とっき)がついた深鉢には縄文がありません(図2)。この土器は 中期に新潟県(にいがたけん)を中心に分布する火炎土器(かえんどき)の一種です。

縄文土器といえば、力強く生き生きとした造形の火炎土器を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし、火炎土器には縄文はほとんどなく、その代わりに粘土紐(ねんどひも)を貼(は)り付けたような立体感のある線で渦巻文(うずまきもん)などの文様を描いています。
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図3 深鉢 東京都東久留米市出土 縄文時代中期(加曽利E式)
京都国立博物館蔵 -
図4 注口土器 伝青森県出土 縄文時代後期(瘤付土器)
京都国立博物館蔵
同じ中期でも図3の深鉢には縄文がついています。このような土器は関東地方を中心に分布します。よく見ると縄文がある部分とない部分がありますね。これは縄文をつけた後に文様を描き、そのあとに一部の縄文を磨(す)り消しているからです。このような文様のつけ方を磨消縄文手法(すりけしじょうもんしゅほう)と呼びます。縄文のある部分とない部分があるために、かえって縄文が強調され、すっきりとした美しさがあります。
後期以降(いこう)も磨消縄文手法は多く用いられます。図4は後期後半に東北地方北部でみられる注口土器(ちゅうこうどき)です。急須(きゅうす)のような注(そそ)ぎ口がついていて、お酒など液体を入れていました。縄文は中期のものより細かくなり、縄文のない部分は丁寧(ていねい)に表面が磨(みが)かれ、光沢(こうたく)をもっています。そのため、縄文のある部分とない部分の対比がいっそうはっきりとして、整った印象をもちます。また縄文がいろいろな方向に転がされているのがわかりますか。これは、先に文様を描いたあとに文様に沿(そ)って縄文をつけているためです。同じ手法は、晩期(ばんき)の縄文土器にも多く見ることができます。
このように長い時間のなかで縄文土器の縄文もめまぐるしく変化しています。大胆(だいたん)な造形や文様は縄文土器の大きな魅力(みりょく)ですが、ときには縄目から縄文人のこだわりを感じ取ってみるのも楽しいものです。

