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兎(うさぎ)と月の連想ゲーム
教育室 水谷 亜希
2023年01月02日
■月の兎
夜空に浮(う)かぶ月の模様(もよう)に、兎の姿(すがた)を探(さが)したことがありますか? 「月には兎がすんでいる」というお話は、中国から日本に伝わりました。さらにさかのぼると、インドの古い古い記録にも、月の中の兎の話があります。どうやら、インドの「月の兎」のお話が、中国を経由(けいゆ)して、仏教に関するお話とともに日本に伝わったようです。
図1を見てください。これは、中国・唐(とう)の時代、今から1,100年以上前に作られた鏡の裏面(うらめん)です。上のほうに丸いかたちが描(えが)かれていますね。これが月です。昔の中国の人は、月の世界をどんな風に想像していたのでしょう。よく見てみましょう。
真ん中にあるのは、桂(かつら)の木。この「桂」は、日本では「木犀(もくせい)」と呼(よ)ばれている木で、秋になると、よい香(かお)りの花を咲(さ)かせます。中国の古いお話では「月には500丈(じょう)(約1,500メートル)の高さの桂の木が生えている」と語られました。
その大きな桂の木の下にいるのが、蟾蜍(ひきがえる)と兎です。言い伝えによれば、この蟾蜍は、もとは地上にいた女の人でした。夫が手に入れた不老不死の薬を、こっそり飲んでしまい、月へ昇って、蟾蜍になってしまったんだそうです。
一方の兎は、臼(うす)と杵(きね)で何かを作っています。日本では、「餅(もち)をついている」と言いますよね。でも中国では、「不老不死の薬を作っている」と信じられました。どうして日本で「餅をつく」と言うようになったのか、はっきりとした理由はわかっていませんが、満月を表す「望月(もちづき)」と「餅つき」が似ているので、餅つきになった、と考える人もいます。
とにかく、兎と月はとても繋(つな)がりが強いものだと考えられたので、「月にすむ兎」や「月を眺(なが)める兎」を描いた作品が、中国でも日本でも、たくさん作られました。
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全体
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月の拡大図
図1 月兎双鵲八花鏡 中国・唐時代(8~9世紀) 赤星薫氏寄贈 京都国立博物館蔵
図1 月兎双鵲八花鏡 中国・唐時代(8~9世紀)
赤星薫氏寄贈 京都国立博物館蔵
■月に替(か)わって……
日本の美術の中で、兎は、秋草や波、木賊(とくさ)(細長くてかたい植物)と一緒(いっしょ)に描かれることもあります。どうしてでしょう? 実はこれらも、すべて月と関係があるものです。
秋は、月が美しく見える季節です。また、お能のあるお話の中には、琵琶湖(びわこ)に映(うつ)る月を見て、月の兎が波間をかける様子を想像する場面があります。木賊は、ものを磨(みが)くために使ったので「磨いたように輝く月」を読む和歌に登場します。月をきっかけに、連想ゲームのように想像が広がって、やがて月をはぶいた「兎と秋草」「兎と波」「兎と木賊」の組み合わせが描かれるようになったのです(図2)。

図2 月と兎の連想

図2 月と兎の連想
図3の着物を見てください。ここには兎、木賊、秋草、波が描かれています。ここまで読んだみなさんなら、もう分かりますよね。すべて月に関係があるものです。でも、肝心(かんじん)の月は描かれていません。あえて描かなかったのです。まるでなぞなぞのような文様(もんよう)です。
図3 木賊花兎に段文様小袖 江戸時代(18世紀) 京都国立博物館蔵
図3 木賊花兎に段文様小袖 江戸時代(18世紀)
京都国立博物館蔵
昔の人は兎を見て、月の世界を想像したり、秋の景色を思い浮かべたり、いろんな連想をしていました。そんなことを知ってから見ると、美術に登場する兎も、今までよりもっと面白く見えてきますよね。