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No.39
特別展覧会『日本人と茶 −その歴史・その美意識−』雑感
源城 政好
展覧会のテーマがいかに刺激的であっても、陳列される各作品にテーマに沿った解釈と説明がされていなければ、単なる美術工芸品の羅列におわり、たとえひとつ一つの作品がすばらしいものであったとしても、テーマに魅力を感じて博物館を訪れた鑑賞者にとっては興味が半減する。企画倒れとはこのような展覧会をいう。企画側の力量が一番試されるところだろう。
2002年9月7日から10月14日まで開催された特別展「日本人と茶 その歴史・その美意識」は、数々の美術工芸品を間近に、喫茶文化の歴史を視覚的に通覧できるまたとない機会であった。展覧会場は、「喫茶日本渡来」・「入宋・渡来僧と茶」・「喫茶のひろがりと遊興化」・「東山御物と君台観左右帳記」・「わび茶の系譜」・「町衆の茶」・「大名茶の流れ」・「喫茶の大衆化」・「煎茶の世界」という時代の流れに沿って9の小テーマに区分され、200件余の作品がテーマごとに配置されており、まさに圧巻というにふさわしいものだった。奈良時代末期にはすでに喫茶がはじまっていたとは正直いって驚きだったが、山城国府跡や奈良興福寺一乗院下層からの緑釉陶器釜や椀がそれを実感させてくれた。いちばん魅力的であったのは、なぜこの作品がこの区分に陳列されているのかということがつぶさに理解しうるようなテーマ概説と個別作品解説が、適切で平易に書かれていたことだろう。「適切で平易な」ところが大切で、鑑賞者はこの解説によって陳列品に対する集中力を高めることができるのだ。
自分の興味からすれば、「喫茶のひろがりと遊興化」の作品群、ことに「富士見図屏風」と「釈迦堂春景図屏風」の作品に目がとまった。一服一銭の茶屋が描かれているのだが、いずれの茶屋も、小腹を満たすための串刺しの焙り餅のようなものも商っていることに驚いた。いずれも16世紀の作品であるだけに、一服一銭茶屋の営業方針には興味深いものがあった。
茶に関する展覧会といえば、まず「わび茶」に代表される茶の湯文化だが、煎茶文化は、私たちが毎日なにげなく飲んでいるわりには少し関心度が薄い。「煎茶の場合には茶筅を使わないというのが常識だが、この点については一考を要する。と言うのも、前近代においては煎じた茶を茶筅で攪拌し、泡立てて飲むという喫茶法があったらしいからである」という図録解説の一節は、白米をこげ茶色になるまで焼いた煎り米、中国の花茶であるさんぴん茶、番茶を大きな茶筅で攪拌してのむ沖縄の「ブクブクー茶」がまさにそれにあたる。
展覧会の構成は江戸時代で終わっているが、他の分野に比べて資料収集が困難かもしれないが、茶を生産する分野も含めての近代における庶民の喫茶についても一章をもうけてほしかった。近年ペットボトルのお茶が大流行で、お茶をつくらない家庭も出現しているようだし、「びっくり水」までコンビニに買いに走る時代だから、日本の喫茶文化の行く末を展望する意味においても。
[No.139 京都国立博物館だより7・8・9月号(2003年7月1日発行)より]