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No.114

明治古都館の耐震改修

京都国立博物館長

松本 伸之

今冬は京都市内でもしばしば雪が舞い、古都の風情溢れる姿を目にすることができました。この小冊子が出回る頃には、桜花が雪に取って代わって、ほのぼのとした温もりをもたらしてくれることでしょう。博物館に並ぶ数々の文化財は、こうした季節のうつろいを幾たびも経て、現在まで伝わったものです。

明治30年(1897)の開館以来、当館の顔ともなってきた明治古都館(本館)も、そうした文化財の一つです。フランス・バロック様式の中に日本的な感性を取り入れてなったこの建物は、近代日本建築の優れた作例として、昭和44年(1969)に表門や袖塀などと共に国の重要文化財に指定されています。東山の閑静な地にたたずむ壮麗な姿は、そのまま当館の歴史を物語るものでもあります。

この明治古都館では、これまでに特別展をはじめとする数多くの催しが行われてきました。しかし、その構造上、老朽化に加えて耐震強度に懸念されるところがあり、平成の中頃から耐震性能診断を行うなど、災害への対策を練ってきたところです。そうした検証の結果、末永くこの建物を維持していくためには、耐震補強を行うのがよいという判断に至りました。

一口に耐震補強といっても、建物の素材や構造などにより、その方法はまちまちです。専門家とともに検討を重ねたところ、明治古都館のような煉瓦造りを基本とする建造物では、単なる補強というより、建物全体を支える免震装置を床下に設置する方法、つまり免震工法が最もふさわしいという結論に達しました。

免震工法の採用が固まったとは言え、それだけではすぐに着工するわけにはいきません。免震装置を設置するのが地面ですから、歴史ある土地柄、地下に眠る遺構などの確認を行わなければなりません。諸々の準備を経た後、平成27年(2015)からは、明治古都館を休館し、慎重に周辺の発掘調査を進めてきました。調査の過程では、当館の敷地にかつてあった豊臣秀吉創建の方広寺の築地塀跡が発見されるなど、大きな成果が上がったりもしているので、ご存じの方も多いかと思います。

この間、明治古都館という歴史的な建築物を将来にわたってどのように保存し、活用を図っていくのか、その基本計画の策定を並行して行ってきました。発掘調査によって新たな知見が得られると、基本計画にも変更を施す必要が出てきたりもしています。

耐震改修を進める上での準備段階となる発掘調査がほほ完了を見つつあるいま、いよいよ改修計画の最終版を仕上げる段階となってきました。現時点でのスケジュールでは、令和4年(2022)度中に基本計画を固め、設計準備を経て具体的な設計業務を数年かけて行い、その後に免震改修・保存修理の実際の工事へと進む予定です。まだまだ長い工程が想定されていますし、こうした計画の進捗を図るためには、何より関係各方面の協力と巨額にのぼる予算の獲得が必須の条件となります。

いったいいつになったら明治古都館を開くのか、といったお声も頂戴しているところではありますが、かけがえのない遺産を未来へ確かに伝えかつ有効に活かしていくため、拙速を避けながら、耐震改修を着実に進行していけるよう取り組む所存ですので、どうぞ皆様のご理解とご支援を心よりお願いいたします。

[No.214 京都国立博物館だより4・5・6月号(2022年4月1日発行)より]

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