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No.120

「親鸞聖人生誕850年特別展 親鸞—生涯と名宝」を拝見して

広島大学教授

佐々木 勇

このたび、浄土真宗各派寺院所蔵の法宝物を一堂に集めた「過去最大の親鸞展」を、4月21日(金)に拝見することができた。僥倖である。

3階展示室は、第1章 親鸞を導くもの―七人の高僧―。2階は、第2章 親鸞の生涯。1階は、第3章 親鸞と門弟、第4章 親鸞と聖徳太子、第5章 親鸞のことば、第6章 浄土真宗の名宝―障壁画・古筆―、第7章 親鸞の伝えるもの―名号―、と題される。

第2章~第4章は、坐像と伝絵とで、聖人の生涯をたどる。第5章には、圧巻の真蹟が並ぶ。以下、「出品一覧」の番号を並記しつつ、本展覧会のために集められた大量の文献中、当日拝見したうちの数点について記したい。

第1章では、【15】国宝・観無量寿経註の迫力に圧倒される。若き日の勉学の跡に、直に接することができる。上下欄の注文と本文声点との朱筆は、同筆と見られる。これに対して、紙背の朱筆は、やや淡い。この点は、複製本では確認できない。『十住毘婆沙論』として、【21】愛知県・岩屋寺蔵の宋版一切経思渓版が展示されている。親鸞聖人が思渓版を閲覧したことは確実で、漢字字体にも影響を受けている。

第2章の【38】善信聖人親鸞伝絵(高田本)は、学生と共に原本閲覧し、翻刻・索引を作成した想い出の伝絵である。【58】藤原範綱消息は、補修前のカラーパネルとともに、初公開の原本が展示されている。【63】選択本願念仏集延書・【64】拾遺古徳伝絵も、大学院の演習で参考資料とした文献である。【69】法然聖人絵(弘願本)巻第三の巻頭文には、14世紀における日本漢文の読みを知ることができる、詳しい訓点が加点されている。

親鸞聖人とそれに繋がる人々の遺文には、同時代の類似文献には見られない特徴が有る。それは、漢字に仮名等の訓点を加点し、通常は仮名書きしない漢語を仮名で書く点である。これは、仮名を読むことができれば、法語を理解できるようにするための心配りである。聖人の目は常に庶民を見ており、聖人門下にもこの視点が引き継がれた。この、庶民への配慮は、第3章の【99】一流相承系図や【102】親鸞聖人惣御門弟等交名にまで及ぶ。系図の僧名や門弟名への仮名によって、現代の我々も、当時の僧名を正確に読むことができる。

第4章では、【117】「上宮太子御記」(西本願寺)と【118】「善信聖人親鸞伝絵」(佛光寺)とに目を奪われた。第5章には、『教行信証』【122】国宝・坂東本・【123】高田本・【124】西本願寺本が、初めて一堂に会し、第6章では、【163】安養六種図・【165】桜牡丹図が威光を放つ中、【167】三十六人家集・【168】類聚古集・【169】熊野懐紙の国宝古筆が並ぶ。

最後の第7章は、いずれの展示期間も、名号と親鸞聖人影像の2点のみが、照明を落とした室に置かれる。生涯を通じて、聖人が名号と向かい合ったことを象徴的に示し、展示を閉じる。ここで観覧者は、聖人と共に仏と、また聖人と仏とに対峙することができる。

この親鸞展は、なぜか懐かしさを覚える、異空間であった。
展覧会図録は、今後の研究論文に引用されることであろう。
皆様も、非日常空間を作り続ける京都国立博物館に、是非ともお運び下さい。

参考資料:「親鸞聖人生誕850年特別展 親鸞—生涯と名宝」 出品一覧(PDF)

[No.220 京都国立博物館だより10・11・12月号(2023年10月1日発行)より]

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