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No.121

茶碗の形(なり)

京都国立博物館調査・国際連携室長

降矢 哲男

近ごろ、茶の湯の茶碗に関する書籍の編集を行う機会がありました。

それぞれの種類の基準作といえる茶碗を数多く取り上げながら内容を構成し、かつ新たな視点を取り入れて作品選定を行っていく作業は非常に困難を極めましたが、監修者、所蔵者をはじめとして多くの方のご理解、ご協力をいただき、なんとか刊行に至りました。編集作業の過程では、掲載がかなわなかったものも含め、数多くの茶碗を実見する機会があり、多くの知見を得ることができました。今回はその際に感じたことについてお話ししたいと思います。

今日まで伝来してきている茶の湯の茶碗をはじめとする名物茶道具について考えていく際、まずはその茶碗を手にして詳細に観察を行い、寸法や重さ、轆轤挽(ろくろび)きの様子や胎土の状況、そして釉薬の掛かり方などを調書に記録していきます。また調書とともに様々な角度からの写真も撮影するようにしています。調査を行った後、その茶碗が桃山時代、江戸時代などにおいて実際に使用されていた場合、茶会などにおいてどのような位置付けをされていたかを知るために、文献資料などの記録をたどりながら、当時の状況を明らかにしていきます。そうした際の手掛かりとなるものとして、『松屋会記』や『天王寺屋会記』があります。各時代の茶人たちが、茶会において茶道具を鑑賞、観察した内容を記録した茶会記です。そのほかには『山上宗二記』など、茶道具の由緒や名称、形状、寸法などを記した名物記が挙げられます。

こうした調査を行うことにより、これまで感覚的に捉えていた寸法や色彩、質感などについても実証的に捉え、かつその茶碗が使用されていた当時の茶会の様子などもイメージすることが可能となります。加えて、これまでの先行研究から学んだ情報について、どういった経緯でそれらの文章が記されたのか理解することができ、自身が思い違いをしていたことがわかることもあります。実際に手にして初めて得られる情報も数多くあり、調査の重要性を改めて痛感しました。そして、書籍に掲載した茶碗の半数以上が、現在も現役で茶道具して用いられているものであったり、個人コレクションをもとにした美術館の所蔵品であったことは、今なお茶人たちによって大切にされ、コレクションしたそれぞれの人物の深い想いを感じる機会にもなりました。

実は、こうした実感はすでに、『山上宗二記』をはじめとする桃山時代の文献にも記されています。このたび、編者として茶碗を調査し、一定の基準をもって分類を行うことによって、わずかではありますが、その思考を共有できたように思います。書籍に掲載する写真を選定する際、茶碗の形(なり)についてよくわかるものを、と強く意識しましたが、それも、丹念に一つ一つの茶碗と向き合い、対話する機会を得たことで、よりよい選択ができたように思います。

これからも、研究者として「モノ」と向き合う機会を大切にしていきたいと考えています。

 

[No.221 京都国立博物館だより1・2・3月号(2024年1月1日発行)より]

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