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銅鐸は何個作られたか?(どうたくはなんこつくられたか)
考古室 難波洋三
2000年12月09日
銅鐸は弥生(やよい)時代の青銅製祭器(せいどううせいさいき)の一種で、これまでに約500個が出土(しゅつど)していますが、実際(じっさい)に作られた総数(そうすう)は何個だったのでしょうか。たとえば、これを700個と考える場合と7000個と考える場合では、銅鐸を使った祭祀(さいし)の性格付け、作るのに必要な金属原料(きんぞくげんりょう)やできあがった製品の移動(いどう)からうかがえる当時の遠距離地域間(えんきょりちいきかん)の交流関係などの評価(ひょうか)が大きく変わってしまい、それは弥生時代社会の評価にも影響(えいきょう)を与えることになります。
それでは、どのようにして銅鐸の製作総数を算出(さんしゅつ)できるでしょうか。これまでに、二つの方法が考案(こうあん)されています。一つは、春成秀爾(はるなりひでじ)さんの考えた方法です。春成さんは、出土している銅鐸の鋳型(いがた)のうち、2個体は作った銅鐸が出土しており6個体は作った銅鐸が出土していないことが確認(かくにん)できるので、銅鐸は作られた総数の4分の1しかまだ出土していない、と推定(すいてい)しました。たとえば、現存(げんぞん)する銅鐸を500個とすると、その4倍の2000個が作られたことになります。しかし、この計算には問題があります。それは、これらの鋳型がいずれも石製(いしせい)で、一つの鋳型を繰り返し(くりかえし)使って複数(ふくすう)の銅鐸が作られたと考えられるのに、これを考慮(こうりょ)していないからです。この点を考慮すると、銅鐸の製作総数は春成さんの計算よりずっと多くなります。詳細(しょうさい)は略(りゃく)しますが、これらの8個体の鋳型で作られた銅鐸の数を約20個と仮定(かてい)すると、そのうち、見つかっているのは3個だけですから、銅鐸の発見率(はっけんりつ)は20分の3、銅鐸の製作総数は3300個となります。ただし、このような検討(けんとう)をしうる鋳型はまだ10個体足らずしか出土していないので、今後の資料の増加などによって、計算結果が大きく変る可能性(かのうせい)があります。
2番目の方法は私の考えたものです。銅鐸のうち、あるグループの製作総数が判明(はんめい)すれば、そのグループが銅鐸全体に占(し)めている比率(ひりつ)はわかっているので、銅鐸全体の製作総数が算出できます。ここでは、外縁付鈕1式四区袈裟襷文銅鐸(がいえんつきちゅういっしきよんくけささすきもんどうたく)を例にとって計算してみます。この外縁付鈕1式四区袈裟襷文銅鐸のうち、すでに出土しているものをA、まだ出土していないものをBとし、Bを、同じ鋳型で作った銅鐸がAにあるB1と同じ鋳型で作った銅鐸がAにないB2の2群にわけると、銅鐸の製作総数はAの総数とB1の総数とB2の総数の合計となります。Aの総数は19組26個ですから、B1の総数は一つの鋳型を繰り返し使って兄弟の銅鐸(同范(どうはん)銅鐸)を平均(へいきん)何個作ったかが推定できれば、算出できます。たとえば、このグループでは同范銅鐸を各組平均4個作ったと仮定すると、B1の総数は、19×4−26=50個となります。残るB2の総数が算出できれば、外縁付鈕1式四区袈裟襷文銅鐸の製作総数がわかるのですが、これは次のようにして算出できます。数年前、島根(しまね)県の加茂岩倉遺跡(かもいわくらいせき)で銅鐸が39個出土しましたが、その中にはこの外縁付鈕1式四区袈裟襷文銅鐸が19個含まれていました。そのうち、9個はB1に、10個はB2にあたります。この9対10の比率は、B1の総数とB2の総数の比率をほぼ示していると考えられるので、B2の総数=B1の総数×10÷9=50×10÷9=約56個となります。以上から、外縁付鈕1式四区袈裟襷文銅鐸の製作総数は、AとB1とB2の総数の合計=26+50+56=132個と算出できます。そして、外縁付鈕1式四区袈裟襷文銅鐸は、銅鐸全体の8.8%を占めていますから、銅鐸の製作総数は132÷0.088=約1500個となります。
ここで紹介(しょうかい)した二つの方法で算出した1500個あるいは3300個という銅鐸の製作総数からは、弥生時代の主要(しゅよう)な集落(しゅうらく)のほとんどに、銅鐸があったことが推定できます。また、まだ千個あるいはそれ以上の数の銅鐸が、出土せずにどこかで埋(う)まったままであることも、推定できます。その中には、多数(たすう)の銅鐸が一緒(いっしょ)に埋められた加茂岩倉遺跡のような例も、いくつかあるはずです。字数(じすう)の関係上、詳(くわ)しい説明ができませんでしたが、皆さんも銅鐸の製作総数を算出する新しい方法を、自分自身(じぶんじしん)で考えてみませんか。